テクスチュアル・ハラスメント訴訟サポートグループ

「女性の著作権を考える会」

  当会の活動は原告の勝訴(判決・2001年12月25日)を持ちまして、
HPの運営以外の活動を終了いたしました。
皆様、暖かいご支援とご協力をありがとうございました。



下記「発足の辞」は当会とテクスチュアル・ハラスメント訴訟を
端的に解説するものとして掲載を続行させていただきます。

発足の辞

 現在、東京地方裁判所において、平成十年(ワ)1182号民事訴訟、通称オルタ事件、仮称テクスチュアル・ハラスメント事件(原告・小谷真理)が、争われております(註・2002年12月25日に原告の勝訴で結審いたしました)。

 この事件は、次のような内容でした。昨年十月一六日に刊行されたサブカルチャー系レファレンス・ブック『オルタカルチャー』(編集:(株)メディアワークス、発売:(株)主婦の友社)のなかで、二項目にわたって、著述家・小谷真理さん(女性、SF&ファンタジー評論家)の名が「その夫である巽孝之氏のペンネームであり、本人は男性である」という断定の記述が掲載されたのです。小谷真理さんは、同書が刊行されたあと、度々抗議を申し入れましたが、誠意のある回答が得られないため、「名誉毀損」として法廷で争うことになりました。

 原告側の主張は、「女性(妻)の名前を、男性(夫)の筆名とし、女性である著述家を男性であると断定する記述は、女性から名前を奪うことであり、言論権を剥奪する女性差別表現である」というものです。

 女性が自分自身の名前で作品を発表したり、何かしらの創造的行為を行った場合、「それは彼女自身が書いていない、身近にいる男性の手によるものだ」、あるいは「女が書いたのではない、男が書いたに決まっている」と揶揄すること……これは「女性がひとりでは創造的なことなど何もできない」とする、古来から女性たちが比較的頻繁に受けてきた誹謗中傷の典型であり、その背後にはそれを類型表現とも気がつかないほど深く根づいた女性差別意識があるものと推測することができます。                        

 アメリカではすでに1983年に、フェミニスト作家でワシントン大学教授のジョアナ・ラスが、『女性の作品を抑圧する方法』というパロディふうの著作を発表し、古今東西の女性のクリエーターがどのような誹謗中傷にさらされてきたのかを分析しています。

 たとえば、同書の第三章「主体の否定」は、次の一文から始まっています。「女がものを書いたのなら、まずどう対処すべきか? 第一の戦略としては、そもそも女性が書いたということを否定しまえばよい。女はものを書けないのだから、女性以外の主体、つまり男が書いたにきまっている、というわけだ」。

 ラスは、男性の執筆者に女性の助けがあってもそれは当然で、内助の功として賞賛すらされるのに、その逆、つまり女性の執筆者の場合には、なにかと男性(夫・父・親しい間柄の人物)の援助で書いたと非難されることがままあるということを指摘しております。わたしたちは、こうした男女の置かれている非対称的な社会状況が、今回の事件を生んだのではないかと考えております。

 これは、テクスチュアル・ハラスメント(文章上のセクシュアル・ハラスメント)であり、女性の創造性を脅かすゆゆしき事件と言えるでしょう。また、セクハラ問題と同様に、頻繁に起こってはいるものの見過ごされている、あるいは顕在化しにくい問題であることにおいても、注目されます。

 わたしたちは、裁判の行く末を見守るとともに、女性に向けられた社会的偏見を払拭すべく、サポートグループを立ち上げました。皆様のご支援とご協力をいただけましたら、これにまさる喜びはございません。

 何卒よろしくお願い申し上げます。

「女性の著作権を考える会」発起人

大原まり子(SF作家)・小林富久子(早稲田大学教授)

三枝和子(作家)・与那覇恵子(東洋英和女学院大学助教授)

  


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