本件を含むテクスチュアル・ハラスメントが女性学の見地からどのように捉え
られるのかを解析した、小谷真理編『テクスチュアル・ハラスメント』が2001年
2月刊行の運びとなりました。
SF作家&ワシントン大学英語文学教授ジョアナ・ラスの評論書『女性の書き物
を抑圧する方法』(テキサス大学出版局、1983年)の翻訳と小谷真理の論考
「この批評に女はいますか」が収録されております。
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彼女は書いたが、書くべきではなかった 彼女は書いたが、何を書いたか見てみろ 彼女は書いたが、生涯にたった一作品だけだった 彼女は書いたが、本当の芸術家ではないし、本当の芸術でもない 彼女は書いたが、手伝ってもらった 彼女は書いたが、彼女だけは例外だ 彼女は書いたが、しかし・・・ 彼女は書かなかった (帯より)
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女性に創造的なことはできない、という偏見や中傷の
手口や実態を知れば、孤立は免れます。
「作家や評論家の評価というのは、まずは“創造する”という力で評価され、
その次に作品の内容で評価されるという二段構えになっているんです。
どんな愚劣な作品でも、“創造する”という点では認められているわけです。
ところが、私のように名前を奪われてしまうと、“創造する”力をも否定
されたわけで、反撃するチャンスさえない。反撃した内容すら、私が自分で
作ったものではないと思われてしまいますから」
「ある人は私のように名前を奪われていて、ある人は女を売り物にしていると
言われている。初めはそういった問題がすべて違う次元の問題だと思って
いたんですが、この本を読んで、根は同じ問題だったことがわかった。
その意味でも、テクハラについて体系的に書かれた本書を紹介することが
必要だと思いました」
−−小谷真理氏
−−<婦人公論>通巻1082号、2001年4月22日、中央公論社
書評・関連記事一覧(★=抜粋記事あり)
Cafe Panic Americana Book Review★
中央公論、2001年10月1日
週刊読書人、2001年5月11日
西日本新聞、2001年3月11日
・この業界に長くいると、それなりに知り合いの編集者などもでき、たとえば
時々聞こえてくるのは酒の席での、男性作家による女性作家へのかなり激越な
誹謗中傷の類だったりする。
・この本の編訳者である小谷真理の「この批評に女性はいますか?」と題された
小論も読ませる。彼女はまさにこの問題に関して山形浩生と裁判で争っている最中。
山形の有名なホームページで、この本の感想を是非読みたい。
−−茅住ヤヒロ氏
−−東京新聞「書物の森を散歩する」、2001年2月8日
・著者は、文学の世界でも女性は男性によって貶められ、正統に評価されない
ケースが多いという。かの『嵐が丘』でさえ、著者が女性だとわかった途端、
男性評論家による評価はマイナスの方向に大きく傾いたそうである。
・男の手で編集された名詩アンソロジーにおける女性詩人の割合は常に一定の枠内
という話などは、日本の状況と通じるものがある。
−−平田俊子氏(詩人)
−−読売新聞「本よみうり堂」、2001年2月25日
・なぜ今それを訳すのか、日本の風土ではどうなるのかが、第二部で説得的に
解説されている。編訳者は、彼女の声を抹消した相手と法廷で係争中だが、
その意味でこれは、現実的で切実な思いに貫かれた書物である。
・しかし、彼女だけが例外ではない。執筆や編集に多少携わっている私の
経験から言っても、このことと無縁な女の書き手はたぶん皆無だろう。
・今まで見知っていた文学が別の顔を見せること、請け合いである。
−−竹村和子氏(お茶の水大学助教授)
−−日本経済新聞「読書」、2001年3月18日
・本書は、女性作家が受けてきた抑圧を具体的に検証し、さまざまな抑圧の手口を、
冷静に、時には失望と皮肉こめたユーモアをまじえて分析したものだ。ここ数十年の
フェミニズム批評の成熟を感じさせる批評家である。
・私自身も同じ経験をしているので思わず苦笑したが、私が完訳を手がけているL・M・
モンゴメリも児童文学という誤ったサブジャンルに閉じこめられ誤解されていることに
思い当たって驚いた。
・つまり本書のテーマは海外や大昔の話ではなく、まさに現代日本の問題でもあるのだ。
−−松本侑子氏(作家)
−−週刊読書人、2001年3月30日
・こんな逆風を受けながらでなければ生き延びてこれなかったとしたら、「なぜ
女のシェークスピアはいないのか」という問いに対する答えはかんたんだ。あんたたち
男どもがよってたかって足をひっぱったからよ。
・「あれってパートナーの巽孝之のペンネームじゃないのぉ」って翻訳家の山形浩生から
言われた小谷さんは、怒り心頭に発して告訴にふみきった。山形さんは「親しみ」からの
冗談だって言うけど、差別はいつも善意と無自覚をつれてくる。
−−上野千鶴子氏(東京大学教授)
−−京都新聞「読書」、2001年4月8日
・「書いたのは本当は女性ではない」「女性の書いたものだからたいしたことはない」
二月初めに刊行されたジョアナ・ラス著「テクスチュアル・ハラスメント」(河出書房新社)は
女性作家に対する抑圧のタイプをこう紹介している。
・この本を翻訳し、解題を書いたファンタジー評論家の小谷真理氏は、九七年十月、自著が
夫でアメリカ文学史研究者(巽孝之氏)の著作と断定される事件に見舞われた。ある評論家の
記述に怒った小谷氏は、名誉毀損で出版社と著者を訴えた。 「女性にとっては、自分に作品が
帰属するかどうか、疑われるだけでも致命的な打撃を受ける」(小谷氏)からだ。
・男性優位が続いてきた文学界では、女性の作家や編集者の人権を守る取り組みが
遅れてきた。書く場を奪われる恐れがあり、声をあげづらいという構造的な問題もあった。
日本ペンクラブはようやく一昨年になって、女性作家小委員会を人権委員会の中に新設した。
−−松岡弘城氏
−−日本経済新聞「文化」、2001年3月31日