小谷真理氏による陳述書


一、このことを知った経過


 『オルタカルチャー日本版』(編集:メディアワークス、発売:主婦の友社)が刊行された直後の平成9年10月16日、たまたま所用でH社・書籍編集部に勤務されるK氏に電話をかけたところ、本書の発刊と執筆者のお名前を知りました。K氏が気にしている様子なので不審に思い該当箇所をファックスしてくれるようお願いしました。あいにくその時K氏は手元に持っておらず、翌日平成9年10月17日午後22時39分に『オルタカルチャー日本版』の表紙、57頁、58頁、120頁、121頁、奥付をファックスしていただきました。問題となっている項目「SF」(57〜58頁)と「小谷真理、およびそれを泡沫とするニューアカ残党似非アカデミズム」(120〜121頁)の記述を直に読んだのはその時が初めてです。



二、被告らの対応


 該当箇所を一読し仰天しました。特に57頁「小谷真理という男」と、120頁の「そもそも小谷真理が巽孝之のペンネームなのは周知で」、121頁「小谷真理には(というか巽孝之には)」という記述は、明らかに事実ではなく言論の範疇を越えていると感じました。小谷真理は、実在の女性である私、巽真理のペンネームです。しかし、双方の記事とも、小谷真理が巽孝之であるという前提に立って構成されている悪意のある文面でした。疑問に思ったのは、執筆している山形浩生氏が、現在直接の繋がりはないとはいえ、一応小谷真理と巽孝之とも面識のある人物で、両者が同一人物ではないことは知っているはずだということです。仮に小谷真理の項目に対応して巽孝之の項目が設けられていれば、高度なお遊びとして許容したかもしれませんが、後者に関しては項目そのものが存在しないのですから、これがデータの提供ならぬ悪意のための誹謗中傷を目論んだ記述であるのは明白であるように思われました。しかし、読了後は動転しており何をするべきか、直ちに判断がつきませんでした。

 そこでまず、120頁から121頁にかけて批判的対象として取り上げられている拙著『聖母エヴァンゲリオン』の版元・(株)マガジンハウス書籍出版部に勤務され同書の編集を担当されたK氏のご自宅に電話を入れ、同箇所をファックスしました。K氏は読了後、ただちに折り返し小谷のもとに電話をくださり、同箇所が社会的常識の枠を越えているので、上司及び法務部に相談した方がよいというご意見でした。

 週明けの平成9年10月20日にK氏は法務部と相談し、(株)マガジンハウスとして見過ごしにできないということで、メディアワークス編集部・H氏に正式に抗議の電話を入れました。H氏は二、三日のうちに著者と連絡をとって返答すると答えたそうです。

 その後、メディアワークス編集部からはしばらく連絡がありませんでした。K氏から、平成9年10月29日に(株)マガジンハウス書籍出版局局長名で、内容証明付き通知書を、メディアワークス編集部及び主婦の友社に送付する旨伺いました。K氏のお話では十日以内の回答を求めたということです。

 その後、同年11月3日にインターネット上のホームページ(http://www.mediaworks.co.jp/alt/)が開設されているのをアクセス中に確認しました。『オルタカルチャー日本版』「のテクストは、以下のWEBですべて公開され」(同書、8頁)るのが前提と言うことなので毎日アクセスしていたのです。そこでは、確かにすべてのデータが公開されているように見えましたが、「SF」の項目では「小谷真理という男の」の「という男」の部分が、「小谷真理、およびそれを泡沫とするニューアカ残党非似アカデミズム」の項目は項目ごと削除されていました。そこで、わたしは被告らが間違いを認めたのだと考えました。

 ところが、11月11日メディアワークス編集部・U名で(株)マガジンハウス書籍出版局局長宛に配達された内容証明付き回答書は予想外の内容でした。配達当日はK氏が出張されていたため、翌11月12日午前11時50分のファックスによって読みました。

 同回答書では、被告ら、即ち執筆者も編集部も、小谷真理と巽孝之が別人である事を知っていたこと、夫婦で別人であるということを購読者が予め知っていることを前提にした山形浩生氏特有の表現であり、編集部は表現を尊重した旨が記されておりました。「事実誤認の問題ではなく表現の問題である」というのです。表現に自信があるなら、いったいなぜ、上記のとおり、たとえインターネット上であっても『オルタカルチャー日本版』から「小谷真理」の項目を即刻削除したのが、疑問です。

 ところが、同編集部の回答書では、ハードコピー版(本のこと)の同書に関して、同項目の全面削除を行わないというもので、インターネット版でも同様の措置を行なうと書いてあり、その時点(11月7日)でのインターネット版の措置とは矛盾していました。そこでは、小谷と巽が夫婦で別人であることを知らない読者に無用の誤解を招くおそれがあるため、重版分から「レトリックであることがわかるような注釈を入れ、さらに『小谷真理という男』(同書、57頁)の『という男』を削除し、同様の措置をインターネット上でもとる」という提案が記載されていたのです。つまり、これは(株)マガジンハウスからの通知書が届いた後インターネット版からいったん関係部分を全文削除したが、もういちど「という男」を除く全文を注釈付きで復活させたいという提案です。



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