8月 2

2015年度センス・オブ・ジェンダー賞贈賞式スピーチ@いせしまこん

・2019.8.2メモ

ツィッターを読んでいたら、恐れ多くもあの大長編『天冥の標』を見事に完結されたSF作家の小川一水氏が、2015年度SOG賞受賞作「オメガバース現象」とその贈賞式について言及されておりました。なんと光栄にも贈賞式が行われた第55

回日本SF大会いせしまこんの閉会式(2016.7.10)に参加しておられたというのです。

その後小川氏のツィートに反応しているツィッタラーさん達のコメントを見て、どんな感じだったのかはあげといたほうがいいかもなと思い、その時のスピーチ原稿をアップロードすることにしました。

なお、SOG賞とそれをプロモートするジェンダーSF研究会のHPはここをご覧ください。

 

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2015年度SOG賞贈賞式スピーチ原稿】at 第55回日本SF大会いせしまこん閉会式

みなさん、おはようございます。センス・オブ・ジェンダー賞の贈賞式のお時間です。

2001年度から開始されたセンス・オブ・ジェンダー賞も、今年で15回目を迎えました。15年の長きにわたって、ともにセンス・オブ・ジェンダーの世界を探究し、数々の性差SFの名作を褒め称えてくださったみなさんに、厚く御礼申し上げます。

素敵な作品を創造してくださった受賞者のみなさん、ジェンダーってなんだ?それを深めるってどういうこと?  なんていう難問に挑戦し、熱い議論をくりひろげてくださったすべての選考委員のみなさん、SFセミナーの夜合宿にご参加し、さまざまなSF作品を俎上にあげてくださったみなさん、そして、受賞作をほめたたえ、読んで、考えて、思考を深めてくださった読者のみなさん、ありがとうございます。

また、我々の活動をつねにあたたかく見守り、ときとして問題提起し、共同企画に参加して、もりあげてきてくださったアメリカのフェミニストSFコンベンションWISCONとティプトリー賞運営に携わっているマザーボードのお姉様方にも、この場をかりて、御礼申し上げます。

さて、今年のセンス・オブ・ジェンダー賞の選考委員会は、さる6月26日午後1時半より、江戸川区船堀の船堀勤労会館の会議室で行われました。

今回のゲスト選考委員は、りーみんさんです。りーみんさんは、ジェンダーSF研究会発足当時から力強い活動で知られていた故・島田喜美子さんとともに、新潟のローカルコンベンションGATACON発のダンスユニット<かもねぎシスターズ>(註 ネギを振って踊るトリオのダンスユニット、ネギを振るのは、あの初音ミクちゃんより、古い歴史があるのでございますのよ〜、笑) でご活躍されてきたSFファンダム界の逸材です。

そして、15年目という記念の年ということもあって、柏崎玲央奈、と小谷真理という発起人2名が、選考委員会に復帰しました。

今年のセンス・オブ・ジェンダー賞の候補作は、次の通りです。

 

倉田タカシ『母になる、石の礫で』

村田紗耶香『消滅世界』

オメガバースプロジェクトコミックスyoha『さよなら恋人また来て友だち』

蔦沢つた子『好物は一番さいごに腹のなか』

長谷川愛 『インポッシブル・ベイビー』

 

それでは、発表します。

 

今年のセンス・オブ・ジェンダー賞は、オメガバース現象、になりました。

 

あれ?  最終候補作に上がってませーん。

申し訳ございません。説明させていただきます。

 

オメガバースとは、アメリカの二次創作のなかでファンの手によって生み出された特殊設定です。日本でも数年前から、女性ファンの大好きな特殊なジャンル、BL界隈で、この設定が流行し始めました。が、昨年オメガバースプロジェクトという専門のレーベルもたちあがり、オメガバースは、現在野火のようにひろがりつつあります。

基本的なことを説明しましょう。それは、雄と雌以外に、α、β、Ωの三種類の性があるという世界のお話です。この三種類にはそれぞれ雄と雌がいますので、全部で六種類の性があります。βの雄と雌はごく普通の人々で、数が多い。アルファの雄と雌は、ひとにぎりのエリートでボスキャラ、総攻め。Ωはさらに少数の絶滅危惧種で、雄と雌ともに、身体構造が特殊で、両方とも妊娠できます。Ωは三ヶ月に一回、一週間程度の発情期があり、発情期の間はほかのことができず、この期間では妊娠可能です。このため種族存続の性であるΩは、社会的に低い地位におとしめられています。発情期は、フェロモンを出してます。このフェロモンはふだん冷静なαすらも誘惑できる力があり、αがΩのうなじを噛む事でつがいが成立します。

この設定を利用して多くのオメガバースものが書かれてます。

候補作になったyohaさんの『さよなら恋人またきて友達』は、オメガバースでは一番多い、α雄とΩ雄のロマンスです。美しいΩの雄をめぐって、七人のαの雄がしのぎをけずる展開でなかなかエキサイティングでした。

ただし選考会では議論が沸騰し、この作品だけでは、オメガバース全体のおもしろさを説明しきれていないのでは、という話になりました。

たとえば、この六種類の性が存在する場合、(例えばモノガミーで)つがえる種類は全部で何種類になるでしょう?

はい。頭の良いSFファンの皆さんは、すぐに計算できますね?

京大SF研究会ご出身の数学折り紙ニスト、志村弘之先生にこの問題をといていただいたところ、6×5÷2+6で、21種類のつがいができます。つまり百合設定などもありうるわけで、もっと探究されるべきでは、という意見もでました。

このジャンルはファンの二次創作から始まっていて、この設定を考えたのも女性ファンなら、広めたのも、楽しんだのも、女性ファンたちです。むしろ、設定を発明し、吟味し、この分野を拡張して来たすべての関係者をほめたたえるべきではないか、という結論に達しました。

というわけで、今年の大賞はオメガバース現象になりました。

心よりこの現象をほめたたえたいと思います。

どうも、おめでとうございます。

(end)

 

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